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創作サイト【文燈】の雑記、一次、二次創作書き散らし用ブログ。 休止解除しました。創作関連はサイトでの更新に戻るので今後は雑記、返信等が中心となるでしょう。更新が鈍い場合はツイッター(http://twitter.jp/gohto_furi)に潜伏している可能性が、大。
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二次メモ:【魔術士オーフェン】


 ( 09.4.2 )





「誰が呼んだか知らないが~、誰でも彼でもお見通し~」
「ああ」
「夢はでっかく八輪駆動~、科学忍法火の車~」
「ふむ」
「木っ端微塵にくじけるな~、明日は明日のネジが飛ぶ~」
「それ」
(うん、吹っ飛んでる)
 色々と。
 どう好意的に解釈してもノイズに軽く一歩半は踏み込んだ完全なる雑音が、耳を撫でる。
 自身が所属するその教室の扉を開くなり、キリランシェロは一瞥で全容を把握してから窓際の席へと目を向けた。
 その一角だけは、周囲とは成分も材質も異なる沈黙が漂っている――無論それは比喩的な表現に過ぎない。室内の後方ではコミクロンが明らかに自作らしき応援歌(当然、自分自身へと向けたものだろう)を口ずさみながらトンカチ片手にいつもの【作業】に勤しんでいた。そこで舞い散って自らの席まで飛来する大小様々な木屑を湿度の低い手付きで振り払いながら、彼はいつものように古雑誌を読み進めている。コミクロンの歌に時折合の手を入れながら、その視線は一切、微塵も後方には浮気していないようだった。
「それ」
「いや、今歌ってないし」
 サビの部分を歌い終えたのか鼻歌オンリーになっている中で放たれた合の手に、キリランシェロは冷静に突っ込みながらコルゴンの方へと歩み寄る。
「……いや、適当に合の手を入れていいと言われたから適当にやっていたまでだが」
「適当って言うか単に雑なだけだと思うけどね――で、今日は何の本を借りてるのさ」
「適当に」
「ふうん」
 つまり図書室で無作為に選んだ本を読んでいる、と言っているのだろう。一言の指し示す範囲が非常に幅広く奥行きに富んだ――つまり、分かり難いと言う事だ――彼の物言いとしては、比較的“分かり易い”部類に入る。少なくともキリランシェロの感覚を基準とするなら、それが妥当な感想だ。
 前の席に座り、本の背表紙を縦一文字に読み抜いた。【今日から始めるでっかい麻っぽい植物全般の育て方と売りさばき方】と、しっとりとした細身の字体で記されている。首筋の両側にしっとりならざる冷汗が生えるのを自覚しながら、問う。
「……図書室で?」
「図書室でだが。何か不審な点があるのか? 分類シールもしっかり貼られているぞ」
「いやそーじゃなくて道徳的に倫理的に赤ペン入れるべき箇所がたっくさんあるけど」
「ふむ――」
 キリランシェロの指摘に、彼は眉根を僅かに寄せて今開いているページの文章に目を落とした。
 双眸を左右に一掃き、上下に一拭き。そんな動作を幾度か繰り返して再読を終えたようで、呟く。
「つまり業者を通さず対面で直接売買しろ、と」
「いやそこでもなくて、って全部違う! 育てるのも売るのも全部法的に駄目だろそれ!」
「そうなのか? いや、非常に効率のいい資金稼ぎになると旅先の留置場で知り合った銀髪でモヒカンの野盗から聞いたから、今度【塔】に戻った時には是非試してみようと考えていたんだが――ならば、仕方ないな。当面は商品はサボテンだけで行くとしよう」
「……サボテン、趣味で育ててたんじゃなかったの」
「趣味と実益を兼ねている。これはまだ先生にも話していない俺の中で最高レベルの機密事項だが、大陸サボテン業界の地下マーケットに出品すればそれなりの金額になるのさ。更にだ、今なら新種の先物取引で」
「いやもういいやその話。て言うか、何でそれが最高機密なの」
「むう」
 この男がその瞳の奥底に携えている暗部(と言うには意外な程に底が浅過ぎる)にこれ以上踏み込むのを避けたキリランシェロの退避行動に、コルゴンは不満とも失望とも似通わない嘆息で応答した。だからと言って、残念がって“いない”と断定できる程の確信もない――つまる所、どうとでも都合の良いように受け取れた。
「糸ノコ片手に荒野を駆けろ~、人間国宝? 法定速度? そこどけそこどけキャタピラ通る~」
「それ」
 コミクロンの歌声が再び、ぼこっと芽吹いた。どうやら【二番】が始まったらしい。
 1ジュールの熱量すら梱包されていないコルゴンの合の手をきっぱり聞き捨てて、彼は机上に積まれている別の古雑誌を次々と手に取ってみる。違法性のない真っ当な園芸専門雑誌をめくりながら、ついこの間フォルテがガーデニングの通信教育テキストを読んでいた(正確にはレティシャから聞いたのだ)事を思い出し――二人が並んで鉢の植物に水をやっている姿を脳内で想像してみた。
(吹っ飛んでるなあ)
 ただ純粋に一直線に吹っ飛んでしまいそうな衝撃映像である事に、疑いの余地はない。
 コルゴンを飛び越えた背後からまるで糸ノコがぽっきり折れて破片が顔面に突き刺さったかのような悲鳴が上がったが、それはまあ特に糸屑ほどにも気にせずにその他の雑誌を見てみる。と、コルゴンは本当に適当に選択したらしく、その中には普段は触れ合う機会すら目視できない難解そうな専門書まで含まれていた。
 手に取って適当に開いてみた。撫でるような一読では深い内容はとても理解できないが、ややこしい約束事的な何かを書いていると言う事だけは理解する。
「何だか小難しい事を書いてるなあ、この本。……もう読んだの?」
「ああ」
 先月号らしき通販雑誌に新たに目を通しながら、コルゴンは微かな頷きで肯定した。
「気にさえしなければどうってことはない事を書いてあるだけの本だ。だが、それ故に一度考えた以上は気にせずにはいられない。つまりは、気にしなければならない事を書いてあるだけの本とも言える」
「いや意味分かんないよそれ」
 視線を通販雑誌から離さぬまま、より難解な説明を展開する彼にキリランシェロは濁りだけが増した無理解を示す。
 と、コルゴンの口元がそこで微妙な歪みを見せた。
「俺たちの事を書いてある、と考えればいい」
「……え?」
 その歪みが彼の場合は微笑に属する事を、キリランシェロは知っていた。だがそれ故に疑念は更に下へと螺旋する。
 歪みがぽっかりと開いて、身じろぎした。
「自分では決して制御する事のできない存在を創造する事に成功した全能の神がいた。さて、お前はそいつの事をどう思う?」
「え? いきなり何さ――……全能だから何でもできるんだろ、ならどう思うも何もその通りじゃないか」
 困惑のまま頭脳を中速で回転させ、最初に思い付いた回答を口にする。
 コルゴンは視線をキリランシェロの方へと向け、その答えを評価する事もせず暫くの間じっと黙っていた。何かを値踏みするような視線。どんな値段がいいか、白紙の値札を手に考えているような雰囲気。
 ――値段が決まった訳ではないのだろう。
 白紙の値札を白紙のまま貼り付けるように、彼は口を開いた。
「つまりは先生が俺たちにそれを望んでいる、と言う事だ。無責任な話だと思わなくもないが、それはそれで少なくとも俺にとっては酷く都合のいい展開であるのも事実だから、無闇に批判できない訳だな。全く、困った話だ」
「……先生が? いや、だから何を」
 困惑の山に今まさに登頂せんとしているキリランシェロの眼前で、コルゴンは一方通行の言葉を吐き切ってしまったようだった。視線を彼から外し、教室の後方を一瞥する。つられて彼もまた視線を同調させた――折れた糸ノコ片手に、刺さった木片は片頬に、大小様々色とりどりの風船が輪ゴムと両面テープで連結された人間型の物体の傍らで、コミクロンが三番(だと断定できるのは何故だろう)を揚々と口ずさんでいる。
 トンカチやら木材やら糸ノコやらをどの局面で使用したのかは全能の神を以ってしても全く分からないのだろう、が、あの表情から察するに完成したのは間違いないらしい。
 ぼそりと、コルゴンが問いを発した。
「あいつは全能の神だろうか」
 それは自信を持って即答できる。
「いいや」
 席を立って、一歩二歩三歩、前へ。
 発した否定を呪文に仕立て魔術構成を展開。衝撃波でコミクロンごと風船人形を吹き飛ばす。
「……それが即答できて、さっきの質問に答えあぐねるのはどうかと思うが」
 斜め後ろからコルゴンの声は届く。表情は当然ながら窺えない――が、きっと、その唇には苦笑予備軍のような歪みが張り付いているだろう。
「僕は単に、【理論より実践】派なだけだと思うから」
「そうか」
 コルゴンの発した簡潔な納得は、しかし、苦笑からは程遠い真剣な風味を含んでいるようにも思えた。
 振り返ると彼はすでに、後方の惨状からもキリランシェロからも関心を引き揚げ、自分の世界へと帰還している。雑誌へと興味を復帰させた彼がどんな意図で先程のような質問を放ったのかは分からないまま、キリランシェロは仕方なく衝撃波で派手に散らかった教室後方の補修に取り掛かった。
 壁面に熱烈に“引き篭もった”コミクロンを無理やりひっぺがしながら、思う。


(……なんか矛盾してる)


 色々と。
 具体的に何が、とは思いを巡らせず、ただ単純にそう思ったのだった。






 “ 糸ノコと風船のパラドクス ”
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おお!
お久しぶりです。水嵩です。
こちらにコメントしてもよいのかな?

オーフェンとは!
久々のチョイスに興奮気味です。
そういえばオーフェンの新刊?が出るとの噂。なんだか不思議ですね。

ではまた!
水嵩 2009/04/05(Sun)  19:21 編集
やや!
>水嵩さん

 こちらこそお久し振りですー。消えそうで消えない蝋燭のような運営が続いておりますよ(笑)。
 コメントは基本的に大丈夫ですし大いに歓迎なのです。ただ雑記の中身がどうにもコメントし辛そうな代物ばかりだと言うしょっぱい現実があるだけの話でして。コメントは大いに歓迎しますよ!(二回言った)

 オーフェンの新刊の噂、はまだ仕入れていないのですが、秋田さんのサイト(モツ鍋)で後日談らしきものが載せられているとの話は気になって気になって、でもまだ見ていなかったり(苦笑)。久々に既刊を読み返してあっさり熱がぶり返して駄文がそーら出来上がり(何)な最近ですが、新刊の噂は是非とも真になって欲しいですね。
 コメント、有難うございました!
諷里 2009/04/05(Sun)  23:17 編集
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