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創作サイト【文燈】の雑記、一次、二次創作書き散らし用ブログ。 休止解除しました。創作関連はサイトでの更新に戻るので今後は雑記、返信等が中心となるでしょう。更新が鈍い場合はツイッター(http://twitter.jp/gohto_furi)に潜伏している可能性が、大。
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二次メモ:【P3】


 ( 09.3.31 )





「72」
 画面上のキャスターがそれを読み上げる前に数字を口ずさみ、半歩遅れの【正解】が故人の写真とともに発表されるのを見届ける。『…間国宝の……源一さんが昨夜肝臓癌のため亡くなりました。72歳でした』と、数字はぴったり符合していた。半年前よりも白髪と黒髪の境界がより根元へと後退している印象が強まったキャスターは一切の感傷の継続乗車も許さず、次のニュースへと話題を移す。
「4.5」
 完全失業率は僅かに外れた。【4.4%】が現実の数値。前々から誘われている【本の虫】でのバイトをそろそろ真剣に考えてみてもいいかもしれない、とふと思う。
「19.4」
 内閣支持率はほぼ合致していた。コンマ3%は誤差の範囲内。それでも高いと思えてしまうこの数字は、きっと喜んではいけない種類の数値なのだろう。
 分厚い茶色の肉体をこの21世紀になっても堂々と誇示しているラウンジのテレビから視線を外して、彼はテーブルの上に開きっ放しの古文ノートを眺めた。来月には二学期の期末試験が控えている――数限りない未来全てからの借金、とでも言わんばかりの濃密な日常非日常が漸く一段落したと思ったら、無常極まりないこのイベントがすぐ先でぽっかり大口を開けて待っている。時間の余裕はない。
 授業中に解き忘れていた章末問題を書き進めながら、「……その一方で」とテレビに一条の視線も向けずに呟いてみる。二秒半――と感じるような中途半端な一刹那――遅れでキャスターの『……大統領の経済政策への支持率は下げ止まりの傾向を示しています。その一方で』との語り声が耳朶をかすめた。
 その一方で、傍らからの足音は耳朶をかすめず、ノックもせずに堂々と中へ届く。
「凄いですね」
 その内側に宛先がきっちりと縫い込まれた賛辞を聞き止め、彼は首を上げた。
 現代文や数学、物理に化学。多種多様な科目の筆記ノートを胸に抱いたアイギスが、ブラウン管の向こう側と彼自身とを交互に観測しながら傍に立っている。確か階上の自室で勉強に励んでいたはずだが、気付かない内に降りて来ていたらしい。当然の事ながら学習に根負けしたような直截的な疲労感は見せていないが、論理回路レベルでは相当な疲労を起こしているようにも思えた。何となく、だが。
 ただ、観察が目的ではない。
 何が?――と、何の捻りも効かせていない率直な疑問を山なりのスローボールで彼女へ投じる。
「いえ、その……先程から聞いていたんですが、画面内の事象予測が次々に的中するものですから。学園での学業以外にも様々な分野に造詣をお持ちなんですね?」
 ピッチャーフライ。山なりの軌道をそっくり真似して、返事が戻ってきた。
 中東地方での爆弾テロ事件をの予告を一瞬だけ映し出し、ニュースがコマーシャルへと切り替わる。その語感から察するに、どうやらアイギスは、彼が“予測”した事象を事前に把握済の既知な事実だと考えているようだった。
 実際の所はと言うと、それは一から十まで思い付きに任せた単なる勘の産物でしかない。が、種明かしにすらならないその事実を素直に告白すると、意外にも、彼女は幻滅する所か尊敬の色彩をますます鮮烈にさせた感嘆を見せたのだ。
「成る程。つまり、過去の経験の統計を利用してその後の発生事象を高精度で予測していたと言う事でありますか」
 大袈裟に言えば確かにそうだし、大袈裟だと言っても間違いはない。
「……まあ」
 “こういうの”は慣れっこだから、とひんやりとした感慨を吐き出しながら、リモコンを弄ってチャンネルを替える。
 何の事はない――共働きだった両親の職業柄、小さい頃から娯楽番組よりもこの手の報道番組の方に接する機会が豊富だった、ただそれだけの他愛ない【種】だ。恐らくは独りでの留守番中に画面を無言で見つめる日々に耐えられなくなったのだろう――気が付いた時には既に、無意識の内に初めて見る人の年齢当てやら原稿の続き当てやらを高精度のスキルとして身に付けていた。
「所謂、【鍵っ子】と言うカテゴリに該当する訳ですか? それはまさにキーマンでありますね」
 それはちょっと格好良過ぎる変換だ、とも思う。訂正する程の事項でもないけれど。
 興味を惹かれる番組が特に見当たらなかったので、結局チャンネルは先程のニュースへと里帰りした。チャンネル・サーフィンの間に事件報道はあらかた片付けられ、画面には女性気象予報士と明日の天気図が映し出されている。お天気お姉さんを凝視していたアイギスが、「……ずばり、31歳と7ヶ月、誤差プラスマイナス35日であります」と呟いた。どうやら、映っている顔面の肌年齢を各センサー総動員で解析した結果らしい。一番最初の登場時に見た公式プロフィールとは大分乖離している気もするが、それは、どうでもいい。【どこまでがお姉さんでどこからがおばさんなのか?】と言う永遠の命題もここに当て嵌めるべきかもしれないが――今は、後回しで良かった。
 ただ、確実に言える事は。
「予測――じゃ、ない」
「……そうですね。貴方が仰る【勘】を駆使する前に、各種感覚情報の事実に即した観測結果を優先して算出してしまいます。何とも難解な概念で残念であります」
 余熱の混じったような薄く淡い蒸気が、嘆息のように口から零れ落ちた。
 いや、実際、嘆息なのだろう。
 擬似的ならざる嘆息を吐き切ったアイギスは、そこで遅まきながら自身の用件を思い出したようだった。抱えていた各科目のノートを「これ、有難うございました」と返してくる。自身が彼女に貸していた各科目の筆記ノートだ。貸してからまだ一日も経過していないのを不審に感じたが、それは彼女自身の「長くお借りしてしまうと申し訳ないので迅速に模写させて頂きました」との言葉で、疑念はすぐに紐解ける。コピーを取らず自力で複製するのはある意味、彼女ならでは、と言えた。
「分かりそう?」
 彼の問い掛けに、アイギスはゆっくりと首を横に振る。
「とても丁寧に要点が整理された文章なのでその点では非常に分かり易いのですが、なにぶん、授業内容自体が私の本来の用途とはナノ単位すら交差しない分野の事象三昧ですから。希望的観測の乱数を最大限重視して大甘に見積もってみても、一教科でも平均点に届いたならば大健闘の類だと思います」
 その見立ては、彼の見解とも一致していた。無論、これは勘ではない。
「正直な話、溺れるものは蜘蛛の糸をも掴む心地であります。何か良い対処法はないでしょうか?」
 諺の間違いを訂正するべきだとは思いつつ、何となくそれでも合ってそうな気がしたので敢えてそこは黙殺する。アイギスの言葉を脳内で数度周回させて、加速させて、やがて彼は一つの結論を算出した。
 筆記用具から一本の鉛筆を取り出して、テーブルの上でそれを転がしてみる。入れ歯を噛み合わせるような高音を引き連れて鉛筆は転がり、コーヒーカップに衝突して回転を止めた。それを指で摘み上げ、彼女に示す。
 そこには、【5】――と、表面に彫り込まれたアラビア数字。
 六角形の表面の一面ずつに、数字の彫り込みがなされていた。
「……これは?」
 そんな彼女の問い掛けに対し、彼は当然、このように答える。
「勘で、当ててみて」




 後日、
 アイギスの筆記用具から【いろはにほへと――】と一面ごとに刻まれた改造鉛筆が発見された事で、彼にも叱責が及んだ事は。
 まあ、
 言うまでもない。






 “ 転がる先の罪 ”
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