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創作サイト【文燈】の雑記、一次、二次創作書き散らし用ブログ。 休止解除しました。創作関連はサイトでの更新に戻るので今後は雑記、返信等が中心となるでしょう。更新が鈍い場合はツイッター(http://twitter.jp/gohto_furi)に潜伏している可能性が、大。
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 後日談二次文章の後編(といっても文字制限の都合で分けただけ)。
 本文は、【つづきはこちら】からどうぞ。



 (前編の続き)


「ッ!?」
 飲みかけのコーヒー牛乳を噴き出す寸前でどうにかこらえ、目を瞬かせる。
 彼女に気取られない範囲で目を動かして厨房の当人の気配を探ったが、反応らしき反応はない。相変わらず背を向けたままレタスを千切っている。調理の時に刃物を一切使わないのはきっと職業を見抜かれないためだ――と思うが実際は分からない。しかし見た瞬間になんとなく見抜かれてしまう隠しようのないその佇まいこそ最大の難題だろうなと、勿論、本人に向け言ったことはなかった。
「…………さんくたむ?」
 いいえ全く存じ上げませんという雰囲気を存分に込めた疑問符を返す。幸い、コンスタンスは「まあそりゃそうよねー」と、マジクの狼狽には気付かないままに話を続けた。
「いやね、開拓計画の実行に向けて準備してた頃にあいつを狙ってアーバンラマに忍び込んでその時はなんとか蹴散らしたらしいんだけど、最近、それらしき男をこの街で見掛けたって話が昔取った首塚っていうか部長経由のルートで流れてきたのよ。こっちの重要人物の暗殺とかやらかされる前に所在を掴んで対処しとけば恩を売れるでしょって姉さんがいうもんだから、一応調べてるの」
「はあ」
 首塚じゃないのは確実だけどなに塚だったっけ、などと思いながら相槌を打つ。
「実際に会ったこともなくて人相も分からない暗殺者をどーやって捜せって話よ、ったく。ま、いいけどさ」
 びっしりと目撃情報らしき文言が書き連ねられている手帳に目を落としたまま、
「今のところ私が掴んでるのは……えっと、そうね」
 ぱちん、と彼女が指を鳴らした。呼応するように食堂内に声が響く。
「お呼びでございますか、コンスタンス様」
「アレを」
「アレでございますか。つまりソレでございますね」
「ソレに良く似ているけれど違うわね。ドレでもないソレよ」
「つまり、ソレとは似ても似つかぬコレっぽいドレの方向性を重視と」
「ドレでもないコレになれなかったアレじみてなくもないソレかしら」
「承知致しました」
 と、
 ガコンッ、と開いた床板の下からホワイトボードがせり上がる。そして何事もなかったかのように元通りに閉じていく板の奥に、見慣れているけど今ここで見てはいけないような気のする白手袋がちらりと見えた。ような気がした。
「……あの人って原大陸に渡ったんじゃなかったでしたっけ」
「渡ったわよ。でもなぜか指を鳴らすと三回に一回ぐらいの割合で普段通りにやってくるのよね」
 出現したホワイトボードを目の前に、コンスタンスがもう何度か指を鳴らしてみる。果たして彼女の言う通り、そこから三度目の指鳴らしで食堂内を白銀の突風が吹き抜け、さっきまでなかった水性ペンがボードの窪みに置かれていた。
 これ以上の疑問符は恐らくきっと、間違いなく無駄だろう。マジクは悟って、ペンを手にした彼女の声に耳を傾ける。
「ボードには要点だけ書き出すから、とりあえず話だけ聞いててね」
「はい」
「ええっと、今のところ確度の高い唯一の情報だけど、敵がどっかと腰を据えるトトカンタ郊外の騎士軍陣地から髑髏マークの水筒を持った怪しい男が市内に潜入してきてお偉方を暗殺するっていうなんともエグい夢を見た市軍の兵士がたまたま美術商の息子で、得意の絵でそれを精密に描写してみようとしたら何処からともなく『あの兵士は敵のスパイだ』という流言蜚語が市内に広まったケースね。これは恐らく、暗殺計画が露見するのを恐れたサンクタムが絵を描かせないよう噂を流したに違いないわ」
 そこまでを一気に語りつつ、コンスタンスは要点であるらしき箇所を抜き出してボードに書き連ねていく。
 語られた情報の信憑性などマジクには分かる筈もない。兎も角、抜き出された要点を目で追ってみた。
 【唯】
 【据える】
 【水筒】
 【エグい夢】
 【絵】
 【何処】
 【流言】
「………………」
 抜き出した、というよりは掘り出したという方が的確なように思えた。そして、これは恐らく正しい観測だが――
「コンスタンスさん、キーワード掘り出すの下手ですね」
「えええっ!?」
 まるで以前誰かに全く同じことを指摘されていたかのように、なんとも型に嵌った驚き方を見せたコンスタンス。おっかしいわねーあれから専門書とか読み込んでスキルアップしたつもりなんだけど、と独り言を呟いていた。
 と、
「………………」
 いつの間に朝食の調理を終えていたのか、両手に皿――ベーコンエッグに即席サラダ――を持ったサンクタムがホワイトボードの傍に立ってキーワードの羅列をじっと眺めていた。相変わらず瞳の中には感情の小波など立たせていないが、焦点はきっちりと文字列に定まっている。
「お前……」
 微動だにせずホワイトボードを見据えていたサンクタムが、ぼそりと呟いた。
「キーワードを掘り出すのが上手いな」
「えええっ!?」
 先程のコンスタンスの叫びを丸ごとコピーして、マジクが叫んだ。
 そして叫んだ直後に、叫んだ自分自身に対してなぜだか強烈な違和感を覚える。その違和感が何なのかがさっぱり分からないようなきっぱり分かるような、奇妙な感覚。そんなマジクの眼前では、思いもよらぬ褒め言葉を頂戴した彼女がなんとも上機嫌な表情でサンクタムに握手を求めていた。
 握手を求めるコンスタンスを無視して隅の席へと向かう彼の背中を、マジクは、違和感を抱いたままにただただ眺めやる。とはいえ抱いたばかりのその違和感は、再開した世間話の中で彼女が何気なく口にした『ダンナが』という単語によって、コーヒー牛乳ごと綺麗さっぱり吹っ飛んでしまったのだけれど。




   “ 神はサイコロ遊びでしか動かない ”  ―― 後日談より
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