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創作サイト【文燈】の雑記、一次、二次創作書き散らし用ブログ。 休止解除しました。創作関連はサイトでの更新に戻るので今後は雑記、返信等が中心となるでしょう。更新が鈍い場合はツイッター(http://twitter.jp/gohto_furi)に潜伏している可能性が、大。
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 新シリーズ開幕を個人的に祝して、後日談じみた二次文章を。
 サイトの方に載せている【勇気】、【前線】の続きのような位置付けです(シリーズ物という程の関連性ではない)。携帯経由で載せているので文字制限の都合上、前編後編に分けております。笑。
 PC環境が復活し更新可能になったら、微修正などしてサイトの方にも載せる予定。
 本文は、【つづきはこちら】からどうぞ。





 彼女がなぜそこにいるのかについては合点が行く。いつもそこにいたからだ。異論はない。
 そして要素を付け加える――なぜ“今”そこにいるのか。幾つかの異論が彼の脳裏に洗濯物のようにはためくが、結論は早々に一つに収束した。なぜも何も、ここ〈バグアップズ・イン〉にやって来たからだ。よって異論はない。
「あ、おはようマジク君。お久し振りー、元気してた?」
「え? ええ、っと……」
 そういうわけで、寝起きで思考の糸が解けたまま食堂へと足を踏み入れたマジクは、本来この時間帯にはいる筈もない(時間帯を問わないということは墓場まで持っていく必要は感じない程度の秘密だ)来客の姿を目撃してもそれほど取り乱すことなく受け答えできた。勿論、初見の客ではない――顔よりもその内側により馴染みある人間。
「コンスタンスさん? ――あれ? アーバンラマに帰って転職したんじゃなかったんですか?」
 疑問符を連射しながら彼女の対面の席に座り、いつもの席にいつものように腰掛けているコンスタンス――コンスタンス・マギー“元”派遣警察三等官の佇まいに目を凝らす。間違いはない。目に馴染み深かったあの青い制服姿ではない。歳月になすがまま洗われたような薄灰色。職業を自己主張しない余所行きのスーツ姿の彼女は、マジクの疑問交じりの視線を打ち返すように今ここに座るまでの経緯を説明してきた。
「…………っていう流れ」
 どうやら一通り説明し終わったらしく、ふぅ、と一息吐く。
「はあ」
 挟む間を見出せずに隠し持っていたままの相槌を漸く打ち込み、マジクはその経緯を自分なりにまとめてみた。
「ええと。つまり、例の新大陸開拓計画が徐々に軌道に乗り始めてアーバンラマの街を閉じる必要もなくなって本格的に貴族連盟との戦争に参加できる状態になったから、僕ら――トトカンタ市軍や《塔》も含めて対騎士軍を見据えて指揮系統を一元化する話し合いのために送られた使者団に紛れ込んでやってきた、ってことでいいんですか?」
「あいつに言わせたら【原】大陸らしいけどね。ま、概ねそんなトコかしら」
 ホントは面倒臭いから断りたかったんだけど姉さんが都市間物流の根っこを今の内に押さえときたいから付いてってこっちの業者に探り入れときなさいって云々、と、後半は個人的な愚痴になっていたのでその部分は適当に聞き流す。聞き流されたことを知ってか知らずか、話を終えた彼女は組んだ両手を頭上で反らせ、ぐいっと伸びをした。見慣れた仕草。
 そこから話題がころころと二転八倒する――「ん。向こうでも今のところは元気してるみたいよ」と、“あの人”に関してコンスタンスは語った。首の皮一枚で繋ぎ止められているあちらとの定期航路で運ばれてくる手紙の束を彼女が取り出したので、日付の古い順に読んでみる。成る程確かに、元気にはしているらしい――“元気を出さねばやってられない”状況と読み換えてみるのが、妥当な結論なのかも知れなかったが。
 そして懐かしい筆跡も交じっている。“彼女”が元気なのは、どうやら確実のようだ。
 なんとも頼もしいボディガードさんよね、とコンスタンスが笑みを零す。全力で、その点には同意した。
「……あれ?」
「むう。なにやら耳障りな声がすると思ったら貴様は懐かしの生煮え司法ヤクザ!」
「ついこの間アーバンラマで会ってるよ兄さん。船を見送ってすぐに不法侵入で叩き出されたけど」
 横合いから舞い込む声。ゴミ袋や雑巾片手に厨房の中から出てきたのはドーチンとボルカンだった。自律型特攻斥候(とはハーティア・アーレンフォード議員の命名)として市軍の厄介になっていたがつまみ食いの多発で食堂を切り盛りする婦人方を激昂させ宿舎――といっても空いていた犬小屋だが――を追い出され、今はこの宿に居着いているのだ。バグアップから言い付けられたゴミ出しやら拭き掃除を、今から始めようというのだろう。
「あらあんたたち、まだこんなトコにいたの。てっきりあいつと一緒に原大陸に渡ったと思ってたけど」
「いや、僕ら別にそんな冒険のためにあそこまで行ったわけじゃないですし。マスマテュリアに帰りたいんですけど騎士軍が占領していて帰るに帰れないんですよ」
「ふうん。大変なのね」
 滲み出る無関心を隠す気がさらさらなさそうなコンスタンスの相槌。実際、その通りだ。
「まあ、それはさておいて。ここに寄ったついでにマジク君に聞いておきたいことが――」
 話を替え、マジクへと問い掛けてきた彼女の視線が、途中から横に逸れる。
 視線を追って真後ろへ振り返る。宿の二階から階段を下りてくる男の姿が、そこにあった。
「あ」
「…………」
 実用性など考えずとりあえず折れる寸前まで鉛筆を削りに削ってみました、とでも言わんばかりの鋭角の影――いや実体。唇に傷を走らせた黒い長髪の青年。いや、青年というにはいささか彩りが色褪せ過ぎている感はあったが。
 いつもの戦闘服姿ではない私服姿。寝起きなのだろうから当然といえば当然だ。とはいえそれでも充分に薄暗い。ハーティア議員が独自のルートで招き寄せた魔術士兼狙撃手の“現”暗殺者、エド・サンクタムは、マジクたちを一瞥すると挨拶を返すでもなく厨房の方へ足を向けた。就寝前から君に決めてましたとでも言わんばかりに、迷う素振りを見せずに揃えられている食材を順々に手に取っていく。
「――セルフサービス?」
「いえ、多分毒を盛られることを警戒してるんだと思うんですけど」
 コンスタンスの疑問は微妙にピントがずれていた。真っ先に聞くべきところはきっとそこではない。
「にしても、只者じゃないって雰囲気だわ。厳つい親戚がいるのねー」
「いえ一応お客なんですけど」
「まったまた。たかが結界が消失して原大陸に渡れるようになった程度でここにお客がやって来るもんですか、常世界法則がそんな簡単に揺らぐと思ったら大間違いよ」
「どーゆう意味、……っていうか意味の欠片すらないですよねその論理展開」
 というお約束のやり取りが小声で交わされる。それを聞いているのかいないのか――どちらにせよ彼が反応する可能性は検討に値しなかったろう――、サンクタムはフライパンでベーコンエッグを調理していた。ここに宿泊(するまでには紆余曲折があったがそれはまた別の話)し始めてから観察しているが、ベーコンがここ三日続いているので明日はきっとハムを使うのだろう。これまでもそうだった。これからもそうに違いない。根拠はないが確信がある。
 そんなことをぼんやり考えていると、コンスタンスが話を再開した。
「ところでマジク君、この辺でサンクタムっていう物騒な暗殺者見なかった?」


 (後編に続く)
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