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創作サイト【文燈】の雑記、一次、二次創作書き散らし用ブログ。 休止解除しました。創作関連はサイトでの更新に戻るので今後は雑記、返信等が中心となるでしょう。更新が鈍い場合はツイッター(http://twitter.jp/gohto_furi)に潜伏している可能性が、大。
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 【A列車で行こうDS】のプレイ経過を、自前の一次創作【TTT】世界とキャラを借用して綴ってみた、一次創作とも二次創作ともつかぬ雑草的文章。
 始発から終電までとっことん自己満足。ゲーム自体はストレイトに面白い鉄道会社経営シミュレーションなので、この文章のカオティックな迷走振りに騙されないでプレイしてみる事をお薦めします。

 →【A&TTT】01





 < 0772/4/1 >


 辞書よりは場合によっては薄く、教科書よりは場合によらず分厚い。
 人に“よっては”充分な凶器になりそうな、ホッチキス一本では到底留め切れないような書類の束から目を離し、窓の外へと視線を移してみる。向こう側に広がるはずの市街地の光景を半分近く覆い隠している窓の清掃業者とばったり目が合い、会釈した。ついこの間までいた【本社】では窓越しに清掃業者を目撃した覚えがなかった――何しろ機密上の理由から窓のなかった職場だ――ので、勤め人としてはごくごく当たり前の接近遭遇なのだがほんのちょっとだけ新鮮に感じられる。
 業者が別の窓へと移動して、青空と太陽が視界を清かに彩る。噛み殺し切れなかった欠伸の欠片が、口から転び出た。
「――――長」
 耳たぶを、しなやかな縫い針、のような声が突っついた。
「話を聞いてますか、“社長”」
 役職名にアクセントを縫い付けてもう一度呼び掛けられ、彼はそこで漸く“自分”が呼ばれている事に気付く。窓外に向けていた首から上を室内へと揺り戻すと、ホワイトボードの傍らで指示棒を携えて立っている女性が自分の方に鋭い視線を向けていた。彼女は誰だろうか、と考えるまでもなく、最初からその解答は知っている。知覚はあるけれど実感がないから、反射的にそんな無為な疑問を産み落としてしまうのだけれど。
「……聞いてます、聞いてますって。話を続けて下さい、秘書さん」
「話を聞いていませんでしたね? 話をしているのは私ではなくて業務部長ですよ」
 蝿叩きで叩き落される蝿のように、種も仕掛けもない安直な誤魔化しは一蹴される。“秘書”の隣で、自分よりも一回り年上の大柄な男が失笑にも苦笑にも受け取れる忍び笑いを口腔の中で噛み殺しているのが見えた。長机を組み合わせただけの八角形の円卓の真向かいに座っている室内の最後の一人、経理部長は書類を一枚めくる度に一段ずつずれ落ちる眼鏡を直しながら、今しがたのやり取りは全く聞いていないとでも言わんばかりに書類上の数字を黙々と読み込んでいる。
(しっかし――いや本当、どうしてかな)
 仮設オフィスの会議室の窓際で、彼は今更ながら、自分が“ここ”に放り込まれた理由を思索する。どれだけ考えても糸口のほつれ糸すら見えてこない難問に立ち向かいながら、その手は書類の束を最初まで巻き戻して行く。一番上の表紙にでかでかと刻されている【企業名】は、確かに見慣れた単語の集積体ではあるのだが、難問を解くための糸は容易には見えてこない。
「では話を続けます。宜しいですかな、社長?」
「――どうぞ」
 そんな“社長”の疑問を余所に、本題は続くのだった。

「現時点までの進捗ですが、既に開発地域の東西を繋ぐ【軽軌路】は敷設済みです。【重軌路】の方は地域北西の“元”カペレット地区に駅舎を建設し、東部……つまりフィナベルト方面ですな、そちらの重軌路線と連結する箇所まで重軌路は敷設し終えました。後は重軌車輌の配備を待つのみ、です」
「そうですか。では、車輌を配備すれば運行開始は可能なんですね?」
「ええ勿論。尤も、肝心の“こちら側”の居住者がゼロである以上、すぐには利益は見込めませんがね」
「それはそうでしょう。……しかし資料を見る限り、この地域には本当に居住者がいないんですね。やはり、“あの事故”の影響で?」
「その通りです。ま、あれは事故と言うよりは災害ですな。十年前に発生したこの地域でのドメイン・シフト――【枢内変動】によって発生地点近隣の住民は強制的に他地域に移住させられ、それ以降は完全に無人の状態が続いています。先頃の調査で【変動振幅】が過去十二ヶ月間連続でゼロ値を計測した事で【連帯会議】から対象地域の安全宣言が出され、晴れて再開発が可能となりました。そして我々――新設間もない【MADI-r】がその最初の開発事業としてこの地の再開発を請け負った訳です」
「……最初の事業なら、【枢内変動】の跡地なんかじゃなくもっと安全な地域を選択した方が良かったとは思うんですけどね。そもそも、何故僕がここの社長に抜擢されたのか、未だに理解が行ってません。本社勤務とは言え、統合監査室で事務を黙々とこなしていただけの人間を選ぶなんて、どうかしてますよ」
「しかし、貴方をこのポストに抜擢したのはCEOご本人だと聞いておりますが。心当たりの一つや二つはあるでしょう」
「それがあればここまで悩んでません。その抜擢の話だって、無責任な噂の一つに過ぎませんよ」
「成る程……ふむ、この話をここでこれ以上突き詰めても袋小路に嵌りそうですな。では、本題に戻りましょう」
「そうしましょう。ええと、それで――その“初期敷設”が終わったのは分かりましたが、現時点での我々の使用可能な資金は幾らになったんです? 経理部長」
「はい、社長。今しがた業務部長が説明された初期敷設の費用を、事業落札金額である300億タームから差し引いた金額は、240億3024万タームになっております。つまり、初期敷設で凡そ二割の資金を消費した計算になっておりますね」
「二割……“そんなもの”ですか? 業務部長」
「まあ、標準的な所ではないでしょうかね、社長。単に軽軌や重軌を敷設する費用だけではなく、それを既成路線と連結する際にも様々な費用が生じますからな。それに居住者がゼロである以上、まず最初は我々が“自腹”を切って最初期の居住者を用立てる必要があります。それらの諸経費も鑑みれば、経営と開発が軌道に乗るまでの必要経費はまだまだ掛かるでしょう」
「成る程ね。それを見越した上で、少しでも経費を抑える為に、この――何と言うか、お世辞にも新しいとは言えない仮設オフィスを借りている訳ですか。……電灯、さっきからチカチカしてますね。あ、消えた。点いた。……消えた。予備の電灯ってあります? 秘書さん」
「今は昼ですから問題ありません、社長。夜までに代わりの電灯を購入しておきます」
「カペレット駅近くに本社ビルが建つまでは、ここ、フィナベルト市から開発の指示を出して行きます。後一ヶ月の内には建つ予定ですから、それまでは少々の不便さ、埃臭さは我慢すべきですな」
「建てるための資材の運び込みは順調ですか?」
「既に充分な量の資材は運び込んでいますから、当面の資材不足は心配せずともよいでしょう。まずは新たな住民が“自発的”にここに流れ込む状況を作り出すために、最低限の環境整備を自腹で行う必要があります」
「……具体的には?」
「カペレット駅周辺に、我々の子会社として住宅や商業店舗などを建てるのが第一歩ですな。最初はどの子会社も赤字でしょうが、やがて他の地域から自発的に人が流入してくれば改善されるでしょう。開発事業においては何事も、辛抱する事から始まります」
「辛抱――まぁ、統監でそこは鍛えられたつもりですから、何とか凌ぎ切りたいものですけど」
「なあに、心配は要りません。あの悪名……失礼、勇名轟いている統合監査室で生き抜いてきた貴方なら、余裕で凌げますとも。共に頑張って開発を進めて行きましょう、社長」
「ええ。……宜しくお願いします」


 “社長”は、ホワイトボードの真ん中に貼り付けられている、開発地域全体の地図に目を向けた。
 地域の真ん中――本来ならなだらかな丘陵が広がっている筈の一帯を半径数キロの円状に刳り貫いたような不自然な地形は、言うまでもなく件の【枢内変動】によって“差し替え”られた被害の痕跡だ。数年前の、“あの”グルニカでの変動事例はまだ人々の記憶に新しい筈。安全宣言が出たからと言って、一般の住民がそうそう易々とこの地に足を向けるとは考え難かった。
 そして一般“ではない”人々の来訪など、それこそ願い下げの限りだ。

(そう上手く行くものかな、全く)

 前途はそれこそ頭上の電灯のように、秒単位で、点いたり消えたりし続けているように思えた。
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